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逃避にみえることがすごい前進だって確信して生きてる。
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「じゃあ明日は、うちにおいでよ」
言うと、思った。茜はきっとうちに来るのを嫌がる。この前みたあの箱の中身を嫌がったから。―あれを嫌がったかどうかは、確かではないけれど。
茜はなかったことにした。見なかったことにした。どちらかといえば予想外の行動だ。茜はいつだって直球ストレート、そういうタイプだから。むしろあの場ですぐに気持ち悪いと言われるような気がした。咄嗟にこぼしてしまったこれ何、の言葉だけ空に残して、何も見なかった振りを決め込んだ。珍しい。大して仲の良くないクラスメイトがじいめられているのを見て無視できなくて文句を言いに行ったくせに。大口叩いておいて本当は怖がっていたもんだからこてんぱんにやられて、おかげで今でも女子高生は恐怖の対象だと、この前話していたじゃないか。バイト先の方針に納得いかないとすぐ文句を言って、その度に首にされるくせに。そのくせに?あれは無視するのか。別に、良いけれど。

気づかない、ことにした。メールという手段をあまり選ばない茜が、ましてデートの約束なんて少なくとも電話をかけてきた茜が、このときだけメールを使ったことには。


「ごめんね、待った?」
「いや。」
「ハルちゃんさあ、いっつも早いけど昔からそう?」
「え?」
「いや、だから、待ち合わせのときはいっつも先に来るタイプ?」
「そうだね・・・うん、そうだな。」
「そっか。」

くすくすと肩を揺らして笑う茜を見ると、何だかどうしようもなく、ああ茜だと思った。茜といえば笑っている、出会ったときからそんな印象を与えている。そして俺と会っているときにはいつもの大口ではなく、少し控えめに笑うところも、何か一線を超えるのかやっぱり大口を開けて笑うところも何というかとても、茜らしい。
黄色のパーカー、ジーンズスカート。塗り残しのあるマニキュアと、ノーメイクの顔。ヒールのないぺったんこなサンダル。いかにも茜らしい。
夏の似合う女、と茜はよく言われているけれど実際は茜は夏意外の季節もよく似合っている。春だって秋だって冬だって、どんな季節からも拒まれないのだ。それどころかこの世の全てのものからも、茜は拒まれることのないように思える。そう考えると、俺が茜と付き合っていることは何というか、とても不思議なことのように思える。
何だか俺は色んなものから拒まれている気がする。2年前から、ずっとそう思っている。それまでの人生で、俺は何かから拒まれているとかそういう胡散臭いことを考えた事はなかった。俺はそんな哲学者ではないから。けれど2年前はじめて、何だか色々な、全てのものから拒まれている感覚を味わった。それ以来仕方ないのだ、この拒まれているという感覚は、まるで重石のように俺の中に沈殿したのだから。
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