握って。
ねえこっちを向いてよと、詰るような視線を投げかけ、否。(投げかけたのではなく、貫かせ)
尚こっちを向かないのを、知っていたけど認識して、いや。(いらだちいらだちいらだち)
早く取れ この手を。
どうしてか私は キミと一緒にいることが とてつもなく苦痛。
10歩歩いたら振り返り、真後ろついてく私がちゃんといるか確認するのが筋だろ大馬鹿者。うざい。
助けてくれなんてふざけた言葉口にしなくても、常に私を助けてよ。その大きな冷たい手を、思い切りつかいなさいよ。
目が合ったら微笑みかけて、美しい旋律で視線を絡ませてよ。
あわせろ 歩調を。
ひたすらくるくると、回り続けてと願っているのにどうして。
さっきから言っているのに。ただ回って回り続けて踊ろうと。
ステージはどこでもいい、と、それくらい言わなくたってわかればいいのに。森でも海でも道路でも空でも上でも下でも私でもキミでも。
感じたままに踊りたいだけだって。それくらい。
答えろ 早く。
さあ返事をして。まっすぐ目を見て。
世界の終焉をみようと 言ったね
ねえこっちを向いてよと、詰るような視線を投げかけ、否。(投げかけたのではなく、貫かせ)
尚こっちを向かないのを、知っていたけど認識して、いや。(いらだちいらだちいらだち)
早く取れ この手を。
どうしてか私は キミと一緒にいることが とてつもなく苦痛。
10歩歩いたら振り返り、真後ろついてく私がちゃんといるか確認するのが筋だろ大馬鹿者。うざい。
助けてくれなんてふざけた言葉口にしなくても、常に私を助けてよ。その大きな冷たい手を、思い切りつかいなさいよ。
目が合ったら微笑みかけて、美しい旋律で視線を絡ませてよ。
あわせろ 歩調を。
ひたすらくるくると、回り続けてと願っているのにどうして。
さっきから言っているのに。ただ回って回り続けて踊ろうと。
ステージはどこでもいい、と、それくらい言わなくたってわかればいいのに。森でも海でも道路でも空でも上でも下でも私でもキミでも。
感じたままに踊りたいだけだって。それくらい。
答えろ 早く。
さあ返事をして。まっすぐ目を見て。
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「じゃあ明日は、うちにおいでよ」
言うと、思った。茜はきっとうちに来るのを嫌がる。この前みたあの箱の中身を嫌がったから。―あれを嫌がったかどうかは、確かではないけれど。
茜はなかったことにした。見なかったことにした。どちらかといえば予想外の行動だ。茜はいつだって直球ストレート、そういうタイプだから。むしろあの場ですぐに気持ち悪いと言われるような気がした。咄嗟にこぼしてしまったこれ何、の言葉だけ空に残して、何も見なかった振りを決め込んだ。珍しい。大して仲の良くないクラスメイトがじいめられているのを見て無視できなくて文句を言いに行ったくせに。大口叩いておいて本当は怖がっていたもんだからこてんぱんにやられて、おかげで今でも女子高生は恐怖の対象だと、この前話していたじゃないか。バイト先の方針に納得いかないとすぐ文句を言って、その度に首にされるくせに。そのくせに?あれは無視するのか。別に、良いけれど。
気づかない、ことにした。メールという手段をあまり選ばない茜が、ましてデートの約束なんて少なくとも電話をかけてきた茜が、このときだけメールを使ったことには。
「ごめんね、待った?」
「いや。」
「ハルちゃんさあ、いっつも早いけど昔からそう?」
「え?」
「いや、だから、待ち合わせのときはいっつも先に来るタイプ?」
「そうだね・・・うん、そうだな。」
「そっか。」
くすくすと肩を揺らして笑う茜を見ると、何だかどうしようもなく、ああ茜だと思った。茜といえば笑っている、出会ったときからそんな印象を与えている。そして俺と会っているときにはいつもの大口ではなく、少し控えめに笑うところも、何か一線を超えるのかやっぱり大口を開けて笑うところも何というかとても、茜らしい。
黄色のパーカー、ジーンズスカート。塗り残しのあるマニキュアと、ノーメイクの顔。ヒールのないぺったんこなサンダル。いかにも茜らしい。
夏の似合う女、と茜はよく言われているけれど実際は茜は夏意外の季節もよく似合っている。春だって秋だって冬だって、どんな季節からも拒まれないのだ。それどころかこの世の全てのものからも、茜は拒まれることのないように思える。そう考えると、俺が茜と付き合っていることは何というか、とても不思議なことのように思える。
何だか俺は色んなものから拒まれている気がする。2年前から、ずっとそう思っている。それまでの人生で、俺は何かから拒まれているとかそういう胡散臭いことを考えた事はなかった。俺はそんな哲学者ではないから。けれど2年前はじめて、何だか色々な、全てのものから拒まれている感覚を味わった。それ以来仕方ないのだ、この拒まれているという感覚は、まるで重石のように俺の中に沈殿したのだから。
言うと、思った。茜はきっとうちに来るのを嫌がる。この前みたあの箱の中身を嫌がったから。―あれを嫌がったかどうかは、確かではないけれど。
茜はなかったことにした。見なかったことにした。どちらかといえば予想外の行動だ。茜はいつだって直球ストレート、そういうタイプだから。むしろあの場ですぐに気持ち悪いと言われるような気がした。咄嗟にこぼしてしまったこれ何、の言葉だけ空に残して、何も見なかった振りを決め込んだ。珍しい。大して仲の良くないクラスメイトがじいめられているのを見て無視できなくて文句を言いに行ったくせに。大口叩いておいて本当は怖がっていたもんだからこてんぱんにやられて、おかげで今でも女子高生は恐怖の対象だと、この前話していたじゃないか。バイト先の方針に納得いかないとすぐ文句を言って、その度に首にされるくせに。そのくせに?あれは無視するのか。別に、良いけれど。
気づかない、ことにした。メールという手段をあまり選ばない茜が、ましてデートの約束なんて少なくとも電話をかけてきた茜が、このときだけメールを使ったことには。
「ごめんね、待った?」
「いや。」
「ハルちゃんさあ、いっつも早いけど昔からそう?」
「え?」
「いや、だから、待ち合わせのときはいっつも先に来るタイプ?」
「そうだね・・・うん、そうだな。」
「そっか。」
くすくすと肩を揺らして笑う茜を見ると、何だかどうしようもなく、ああ茜だと思った。茜といえば笑っている、出会ったときからそんな印象を与えている。そして俺と会っているときにはいつもの大口ではなく、少し控えめに笑うところも、何か一線を超えるのかやっぱり大口を開けて笑うところも何というかとても、茜らしい。
黄色のパーカー、ジーンズスカート。塗り残しのあるマニキュアと、ノーメイクの顔。ヒールのないぺったんこなサンダル。いかにも茜らしい。
夏の似合う女、と茜はよく言われているけれど実際は茜は夏意外の季節もよく似合っている。春だって秋だって冬だって、どんな季節からも拒まれないのだ。それどころかこの世の全てのものからも、茜は拒まれることのないように思える。そう考えると、俺が茜と付き合っていることは何というか、とても不思議なことのように思える。
何だか俺は色んなものから拒まれている気がする。2年前から、ずっとそう思っている。それまでの人生で、俺は何かから拒まれているとかそういう胡散臭いことを考えた事はなかった。俺はそんな哲学者ではないから。けれど2年前はじめて、何だか色々な、全てのものから拒まれている感覚を味わった。それ以来仕方ないのだ、この拒まれているという感覚は、まるで重石のように俺の中に沈殿したのだから。
「晴男くんって、何部なの?」
そのときのゆかりの印象といえばどちらかといえば悪いほうだった。というか、ゆかりが俺を見る目があまり好感の持てるものではなかった。暗い男だと思っていたのだろう。教室ではいつも寝ているだけ。いつも本を読んでいるような男だったらもしかしてそれ相応の同じような趣味の女子が話しかけてきたかもしれない。しかし俺は本も好きではない。さらに言うとゲームもそんなに好きではないから携帯ゲームをとりだすなんてこともしない。さらに言及していけば「ああ、ネクラ」と10人中9人に思われるような、ネクラキャラも確立していない。ようは本当に中途半端な男なのだ。
という、このようなことを全て見通したような目で、ゆかりは俺を見てきた。全部理解している、というような声で、ゆかりは話かけてきた。でも多分、実際ゆかりはわかっていたのだろう。かわいそうなくらい、人の事をよく理解できるやつだったから。
最初から俺の事を全て理解したゆかりが、初めて俺に話かけてきた、その内容は何部か尋ねるものだった。他愛無く、よくある質問。だけど、ゆかりが言ったのだから、それはきっと計算し尽くされて発せられた言葉。俺のような人間に話かけるのに、きっとそれは一番相応しい言葉なのだろう。だから俺はそれ以後、俺みたいなやつに話かける時はいつもそう言う。「お前って、何部なの?」「お前って、サークル入ったりしてるの?」
「吹奏楽部だけど。」
吹奏楽部だと告げたときゆかりはちょっとだけ表情を崩した。多分、吹奏楽、というのはゆかりにとって予想外の答えだったのだろう。うーん・・・小首を傾げ、続けて「何の楽器?」と聞いてきた。
「バリサク。バリトンサクソフォン・・・わかる?」
「って・・・サックス?こう、こうやって吹く、カッコイイやつ?」
そう言ってゆかりは左手を口の近くに、右手を足の方にやり、吹くまねをした。それはまさしく俺の吹くサックスという楽器のそれで、なんだか一瞬、そこにサクソフォーンが存在するかのように正確だった。ただ一つ、気になる事といえば。
「あー、うん。まあ。でも多分・・・」
「え?」
それは、ちょっとしたコンプレックス。だった。中学時代。
何だかんだ言って、俺は中学の頃から吹奏楽をやっていて、ということおは一応今年で5年目ということになる。中学のとき、俺はバカみたいに部活にのめりこんでいた。今までのまだ短い人生を下らなくも振り返って見れば、あの頃が一番快活な、というむしろ唯一快活な時期であった。まあ、言ってみればそんなところもごくごく普通なのだが。
ともかく、俺は中学時代からずっとバリトンサクソフォンを吹いていて、そして一時期、バリトンサクソフォン自体が俺のコンプレックスであった。
「・・・でも多分、お前が想像しているのは、アルトサックス・・・かな?」
「アルトサックス?」
ゆかりはよくわからない、という顔をした。その時、俺はなんて表情の豊かなやつだろうと思った。わかりやすい、といえばそうなのだけど、そういうのとはちょっと違う。素直、というのだろうか。なんにせよ、ゆかりはそれまでも―それからも表情をころころと変えた。誰かが言う下らない一言も聞き零すことなく全てに反応し、よく笑い、よく泣いていた。そのことを、俺はこのときに知ったのだった。
「バリサクは、多分お前の思っているのより、でかくてお前が想像しているよりも、かっこ悪い音を出す。」
「ふーん・・・」
俺は忘れない。忘れられない。その刹那。
―こんな風に思うのは恥ずかしく、馬鹿馬鹿しいけれど。
忘れない、その刹那
「かっこいいね!」
「・・・え?」
輝くばかりの笑顔。ゆかりの良いところを一つ挙げろと言われたら、多分、俺じゃなくても誰もが、笑顔、と答えるだろう。眩しい笑顔がゆかりのチャームポイントだった。
そう、多分。
俺がゆかりに恋をしたのは、このときだったのだろう。
そのときのゆかりの印象といえばどちらかといえば悪いほうだった。というか、ゆかりが俺を見る目があまり好感の持てるものではなかった。暗い男だと思っていたのだろう。教室ではいつも寝ているだけ。いつも本を読んでいるような男だったらもしかしてそれ相応の同じような趣味の女子が話しかけてきたかもしれない。しかし俺は本も好きではない。さらに言うとゲームもそんなに好きではないから携帯ゲームをとりだすなんてこともしない。さらに言及していけば「ああ、ネクラ」と10人中9人に思われるような、ネクラキャラも確立していない。ようは本当に中途半端な男なのだ。
という、このようなことを全て見通したような目で、ゆかりは俺を見てきた。全部理解している、というような声で、ゆかりは話かけてきた。でも多分、実際ゆかりはわかっていたのだろう。かわいそうなくらい、人の事をよく理解できるやつだったから。
最初から俺の事を全て理解したゆかりが、初めて俺に話かけてきた、その内容は何部か尋ねるものだった。他愛無く、よくある質問。だけど、ゆかりが言ったのだから、それはきっと計算し尽くされて発せられた言葉。俺のような人間に話かけるのに、きっとそれは一番相応しい言葉なのだろう。だから俺はそれ以後、俺みたいなやつに話かける時はいつもそう言う。「お前って、何部なの?」「お前って、サークル入ったりしてるの?」
「吹奏楽部だけど。」
吹奏楽部だと告げたときゆかりはちょっとだけ表情を崩した。多分、吹奏楽、というのはゆかりにとって予想外の答えだったのだろう。うーん・・・小首を傾げ、続けて「何の楽器?」と聞いてきた。
「バリサク。バリトンサクソフォン・・・わかる?」
「って・・・サックス?こう、こうやって吹く、カッコイイやつ?」
そう言ってゆかりは左手を口の近くに、右手を足の方にやり、吹くまねをした。それはまさしく俺の吹くサックスという楽器のそれで、なんだか一瞬、そこにサクソフォーンが存在するかのように正確だった。ただ一つ、気になる事といえば。
「あー、うん。まあ。でも多分・・・」
「え?」
それは、ちょっとしたコンプレックス。だった。中学時代。
何だかんだ言って、俺は中学の頃から吹奏楽をやっていて、ということおは一応今年で5年目ということになる。中学のとき、俺はバカみたいに部活にのめりこんでいた。今までのまだ短い人生を下らなくも振り返って見れば、あの頃が一番快活な、というむしろ唯一快活な時期であった。まあ、言ってみればそんなところもごくごく普通なのだが。
ともかく、俺は中学時代からずっとバリトンサクソフォンを吹いていて、そして一時期、バリトンサクソフォン自体が俺のコンプレックスであった。
「・・・でも多分、お前が想像しているのは、アルトサックス・・・かな?」
「アルトサックス?」
ゆかりはよくわからない、という顔をした。その時、俺はなんて表情の豊かなやつだろうと思った。わかりやすい、といえばそうなのだけど、そういうのとはちょっと違う。素直、というのだろうか。なんにせよ、ゆかりはそれまでも―それからも表情をころころと変えた。誰かが言う下らない一言も聞き零すことなく全てに反応し、よく笑い、よく泣いていた。そのことを、俺はこのときに知ったのだった。
「バリサクは、多分お前の思っているのより、でかくてお前が想像しているよりも、かっこ悪い音を出す。」
「ふーん・・・」
俺は忘れない。忘れられない。その刹那。
―こんな風に思うのは恥ずかしく、馬鹿馬鹿しいけれど。
忘れない、その刹那
「かっこいいね!」
「・・・え?」
輝くばかりの笑顔。ゆかりの良いところを一つ挙げろと言われたら、多分、俺じゃなくても誰もが、笑顔、と答えるだろう。眩しい笑顔がゆかりのチャームポイントだった。
そう、多分。
俺がゆかりに恋をしたのは、このときだったのだろう。
「ハルちゃん・・・これ・・・何?」
ああしまったと思った。いつもそうだ。ヤバイかも、という危険信号はちゃんと存在しているはずなのにその後に「まあいいか。」が続く。打開策はいつも存在しない。結局何もしない。
見つかるかもな、とは思っていた。「まあいいか。」と特別に隠すことはしなかった。
でも、俺にしては充分隠している。俺に言わせれば隠しているのではなく大切に保存しているだけなのだが。だって、直接置くのはなんだか寒々しかったのだ。―桃色の箱。この箱どこで買ったんだったかな。ゆかりに見せたらきっと喜ぶだろう。ゆかりの好きな桃色。だけどそれだけが理由じゃない。可愛らしい曲線。見ていると何となく食べたくなってしまうような、そんな綺麗なケース。―と、いうようなことをゆかりはきっと言うだろう。ゆかりはキャラに似合わず非常に文学的なことをたまに言う。いやきっと、もともと文学少女だったのだろう。本質的にはそうなのだろう。ゆかりはそれを隠していた。そう、考えてみればそういうやつだった。本当は凄く繊細なのに大雑把な表情、キャラクター。俺はといえば、とるにたらない男だ。ゆかりはいつも「バリバリ体育会系さわやか男子」が好きだと話していた。しかし俺は吹奏楽部。文化系だ。しかし問題なことに、俺は文化系と言っても全く文化人ではない。ゆかりの話に出てくる小説家の名前はほとんどわからなかったし、正直言えば、ゆかりのどこか回りくどい、いわゆる文学的な表現は、ちっとも理解できなかった。
ただ、俺はなんとなく感じることは出来たのだ。ゆかりの綺麗だと言うものを俺も綺麗だと、いつも思えた。なんとなくきらい、というものを俺もなんとなくきらいだと、心から思えた。意味はさっぱりだけれどゆかりの使う比喩表現は、殊に美しかった。だから、わかる。ゆかりはこの箱を見たらきっと溢れんばかりの笑顔で、可愛いと叫ぶんだ。
だからかもしれない。この箱が可愛かったからだろう。茜がこれを開けてしまったのは。茜もこの箱を見て、可愛いと思ったのだろう。だから思わず蓋を開けてしまったのだ。だとしたらしかたない。
それにしても、なんというだろうか茜は。俺の事をどう思っただろうか茜は。気になる気がする。気にならないような気がする。
茜と対峙しているとき、俺は俺に自身が持てない。自分の感情に自身が持てないのだ。好きな気がする、でもそうじゃない気もする。茜とこれからも一緒にいたい気がする。でもそうじゃない気もする。ひとまず、綺麗じゃないことは確かだ。他の女よりも好感を持っていることは確かだ。だから今のところは一緒にいる。それで問題はない。もしかしたらいつか、自分の感情に自身が持てる日が、くるかもしれないのだから。来ない気も、するけれど。
ああしまったと思った。いつもそうだ。ヤバイかも、という危険信号はちゃんと存在しているはずなのにその後に「まあいいか。」が続く。打開策はいつも存在しない。結局何もしない。
見つかるかもな、とは思っていた。「まあいいか。」と特別に隠すことはしなかった。
でも、俺にしては充分隠している。俺に言わせれば隠しているのではなく大切に保存しているだけなのだが。だって、直接置くのはなんだか寒々しかったのだ。―桃色の箱。この箱どこで買ったんだったかな。ゆかりに見せたらきっと喜ぶだろう。ゆかりの好きな桃色。だけどそれだけが理由じゃない。可愛らしい曲線。見ていると何となく食べたくなってしまうような、そんな綺麗なケース。―と、いうようなことをゆかりはきっと言うだろう。ゆかりはキャラに似合わず非常に文学的なことをたまに言う。いやきっと、もともと文学少女だったのだろう。本質的にはそうなのだろう。ゆかりはそれを隠していた。そう、考えてみればそういうやつだった。本当は凄く繊細なのに大雑把な表情、キャラクター。俺はといえば、とるにたらない男だ。ゆかりはいつも「バリバリ体育会系さわやか男子」が好きだと話していた。しかし俺は吹奏楽部。文化系だ。しかし問題なことに、俺は文化系と言っても全く文化人ではない。ゆかりの話に出てくる小説家の名前はほとんどわからなかったし、正直言えば、ゆかりのどこか回りくどい、いわゆる文学的な表現は、ちっとも理解できなかった。
ただ、俺はなんとなく感じることは出来たのだ。ゆかりの綺麗だと言うものを俺も綺麗だと、いつも思えた。なんとなくきらい、というものを俺もなんとなくきらいだと、心から思えた。意味はさっぱりだけれどゆかりの使う比喩表現は、殊に美しかった。だから、わかる。ゆかりはこの箱を見たらきっと溢れんばかりの笑顔で、可愛いと叫ぶんだ。
だからかもしれない。この箱が可愛かったからだろう。茜がこれを開けてしまったのは。茜もこの箱を見て、可愛いと思ったのだろう。だから思わず蓋を開けてしまったのだ。だとしたらしかたない。
それにしても、なんというだろうか茜は。俺の事をどう思っただろうか茜は。気になる気がする。気にならないような気がする。
茜と対峙しているとき、俺は俺に自身が持てない。自分の感情に自身が持てないのだ。好きな気がする、でもそうじゃない気もする。茜とこれからも一緒にいたい気がする。でもそうじゃない気もする。ひとまず、綺麗じゃないことは確かだ。他の女よりも好感を持っていることは確かだ。だから今のところは一緒にいる。それで問題はない。もしかしたらいつか、自分の感情に自身が持てる日が、くるかもしれないのだから。来ない気も、するけれど。
窓の輪郭が切り取ったそらの一部を指でなぞって、今頃みんなは教室で、勉強しているんだなあと考えたら、自然と笑みが零れた。そらの青が、ますます濃くなったように思った。ああ、きれい。楽しい。私の周りは本で溢れていて、そらは青。真っ青。楽しい。
家の近くにあるこの図書館は最近これまた家の近くに出来た図書館と比べたら、かわいそうなくらいに古めかしい。公民館の一部が図書館と成っているけれど、そもそもこの公民館自体、全然誰にも利用されていない。三階立ての公民館の三階に図書館はあるけれど、どう考え立ってこの公民館で唯一人がいるところは図書館だけなのだから別に一階で良かったのに、と汚い階段を昇る時、いつも思う。思う、けれどもしこの図書館が3階になかったらきっと私はこの図書館をここまで好きにならないんだろうなあと理由なく思う。全く人気のない1階と2階を、耳を澄ませながら通過するのが多分私は好きなのだ。
ほんの少しだけ気になっていることは、ここにいる人達は私の孫zんざいを疑問に思わないのかということだ。今日は水曜日。今は11時。私は制服。ここは図書館。―どうして誰も不思議に思わないのだろう。きっと私は本来ここに存在すべきものではないのに。私は今この図書館における違和感なのに。でも誰もまるで何も思っていないみたいだ。新聞を読んでいるお婆さん、絵本のコーナーにいるお母さんと男の子、落ち着いた足取りで本を整理する図書館の人。皆同じ空気。皆同じ空気でここに存在している。その空気を眺めていたら、段々私もその空気の一部になっていくように感じる。融けていくようだ。そして私は違和感ではなくなる。そうして新聞を読むお婆さん、お母さん、男の子と図書館員さん、そんな全ての人と一緒にこの図書館の一部になる。ああ、そうか。この図書館も人によってつくられたんだなあ。
そんばかばかしいことを考えていたら、私は急に現実に引き戻される感覚を抱いた。青空は引っ込んで曇り空。
まだ、11半。まだ帰れない。早くても3時。3時だったら、大丈夫。部活を休んだことにはなるけれど、お母さんだって別に部活を休むくらいでいちいち文句はいわないだろうし。とにかく3時まで粘らなければ。何も聞かれたくない。答えられないから。理由もなくて。答えも理由もない、そして予想範疇の、いつもの質問なんて、無意味だから。
サボり。皆はそう思うのだろうか思っているのだろうか。それとも私が居なくなったことに誰も気付かないだろうか。そんなことないだろうな。私がいなかったら絶対に皆気付くはずだろう。いつもより教室が静かになるはずだから。
きっとクラスメイトは思っているだろう。私に図書館なんて似合わない。
…
…
…
やっぱり未完(笑)
家の近くにあるこの図書館は最近これまた家の近くに出来た図書館と比べたら、かわいそうなくらいに古めかしい。公民館の一部が図書館と成っているけれど、そもそもこの公民館自体、全然誰にも利用されていない。三階立ての公民館の三階に図書館はあるけれど、どう考え立ってこの公民館で唯一人がいるところは図書館だけなのだから別に一階で良かったのに、と汚い階段を昇る時、いつも思う。思う、けれどもしこの図書館が3階になかったらきっと私はこの図書館をここまで好きにならないんだろうなあと理由なく思う。全く人気のない1階と2階を、耳を澄ませながら通過するのが多分私は好きなのだ。
ほんの少しだけ気になっていることは、ここにいる人達は私の孫zんざいを疑問に思わないのかということだ。今日は水曜日。今は11時。私は制服。ここは図書館。―どうして誰も不思議に思わないのだろう。きっと私は本来ここに存在すべきものではないのに。私は今この図書館における違和感なのに。でも誰もまるで何も思っていないみたいだ。新聞を読んでいるお婆さん、絵本のコーナーにいるお母さんと男の子、落ち着いた足取りで本を整理する図書館の人。皆同じ空気。皆同じ空気でここに存在している。その空気を眺めていたら、段々私もその空気の一部になっていくように感じる。融けていくようだ。そして私は違和感ではなくなる。そうして新聞を読むお婆さん、お母さん、男の子と図書館員さん、そんな全ての人と一緒にこの図書館の一部になる。ああ、そうか。この図書館も人によってつくられたんだなあ。
そんばかばかしいことを考えていたら、私は急に現実に引き戻される感覚を抱いた。青空は引っ込んで曇り空。
まだ、11半。まだ帰れない。早くても3時。3時だったら、大丈夫。部活を休んだことにはなるけれど、お母さんだって別に部活を休むくらいでいちいち文句はいわないだろうし。とにかく3時まで粘らなければ。何も聞かれたくない。答えられないから。理由もなくて。答えも理由もない、そして予想範疇の、いつもの質問なんて、無意味だから。
サボり。皆はそう思うのだろうか思っているのだろうか。それとも私が居なくなったことに誰も気付かないだろうか。そんなことないだろうな。私がいなかったら絶対に皆気付くはずだろう。いつもより教室が静かになるはずだから。
きっとクラスメイトは思っているだろう。私に図書館なんて似合わない。
…
…
…
やっぱり未完(笑)